京都地方裁判所 昭和58年(行ウ)11号 判決 1985年1月30日
京都市北区大北山原谷乾町一九番地一一六
原告
村田米造
訴訟代理人弁護士
高田良爾
京都市上京区一条西洞院東入元真如堂町二五八番地
被告
上京税務署長
土肥米之
指定代理人検事
浦野正幸
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
第一当事者の求める裁判
一 原告
被告が、昭和五七年一月二〇日付で原告に対してした、原告の昭和五三年分ないし昭和五五年分(以下本件係争年分という)の所得税更正決定(以下本件処分という)のうち、昭和五三年分の総所得金額が一三三万円、昭和五四年分の総所得金額が一二六万七〇〇〇円、昭和五五年分の総所得金額が一三三万一〇〇〇円をいずれも超える部分を取り消す。
訴訟費用は、被告の負担とする。
との判決。
二 被告
主文同旨の判決。
第二当事者の主張
一 本件請求の原因事実
1 原告は、肩書住所地で絞彫業を営んでいるが、本件係争年分の確定申告をしたところ、被告は、昭和五七年一月二〇日、本件処分をした。
原告は、本件処分に対し、異議の申立てや審査請求をしたが、その手続的経緯と内容は、別紙1記載のとおりである。
2 しかし、本件処分は、次の点で違法である。
(一) 被告は、税務調査を行わず、本件処分をした。
(二) 被告は、原告の本件係争年分の所得を過大に認定した。
3 そこで、原告は、被告に対し、本件処分中請求の趣旨第一項掲記の各金額を超える部分の取消しを求める。
二 被告の答弁
本件請求の原因事実中1の事実は認め、2の主張を争う。
三 被告の主張
1 本件税務調査について
被告は、昭和五六年一一月二七日以降数回にわたり、部下職員をして本件係争年分の所得の調査に臨場させた。部下職員は、確定申告をするために必要な帳簿書類などの提示を求めたが、原告は、多忙であるとか、民主商工会の事務局員の立会がなければ調査に応じられないといって、調査に非協力な態度をとった。
そこで、被告は、やむを得ず反面調査のうえ、本件処分をした。したがって、本件税務調査には、手続的瑕疵がない。
2 原告の本件係争年分の総所得金額について
原告の本件係争年分の総所得金額は、別紙2記載のとおりである。そのうち、事業所得金額の計算は、別紙記載のとおりである。以下に分説する。
(一) 同業者の選定
被告は、原告の本件係争年分の一般経費を算出するため、同業者の一般経費率を適用した。
被告は、上京税務署の納税者の中から、次の条件によって同業者を選出した。
(1) 西陣織物の絞彫業を営んでいる個人であること。
(2) 売上先の意匠図によって絞彫を行っていること。
(3) ボール紙は仕入れ、絞編は外注に出していること。
(4) 従業員は一人ないし二人であること。
(5) 青色申告書を提出していること。
(6) 年間を通じて事業を継続して営んでいること。
(7) 他の事業を兼業していないこと。
(8) 不服申立て又は訴訟係属中でないこと。
(9) 売上金額が二三〇万円から八四〇万円の範囲であること。すなわち、事業規模の類似性を担保する意味から、原告の本件係争年分のうち、売上金額の最も多い昭和五五年分及び最も少ない昭和五四年分の上限・下限いずれも約五〇パーセントの範囲内にある同業者に限定した。
このように選出された同業者は、別紙4のAないしJの一〇件である。これら同業者は、原告と同じ上京税務署管内に事業所があり、業種は、原告と同じである。したがって、原告と類似性があるとしなければならない。
(二) 昭和五三年分
(1) 別紙3の<1>売上金額 五四八万三七九五円
原告の売上先訴外株式会社じゅらく工芸織に対する売上金額(売上金額から差し引かれる値引をのぞく)である。
(2) <2> 売上原価 四八万七一七一円
仕入先 仕入金額
株式会社廣岡陸三郎商店 五万〇八七〇円
船岡紙業有限会社 四三万六三〇一円
なお、期首と期末の棚卸高を同額とみて仕入金額を売上原価とする。
(3) <3> 一般経費 八〇万八三一二円
<1>の売上金額に別紙4の一般経費率〇・一四七四を乗じたものである。
(4) <4> 外注費 三八万三四二八円
外注先 外注費
細見俊雄 三五万九八〇〇円
船岡紙業有限会社 二万三六二八円
(5) <5> 減価償却費 五万三七五二円
別紙5記載のとおりである。
(6) <6> 支払利息 一五万六〇六九円
原告が、国税不服審判所長に対し審査請求した際の主張額である。
(7) <9> 事業専従者控除額 四〇万〇〇〇〇円
原告の申告額である。
(三) 昭和五四年分
(1) <1> 売上金額 四六三万三五〇九円
昭和五三年分と同じである。
(2) <2> 売上原価 四〇万七六〇八円
仕入先 仕入金額
株式会社廣岡陸三郎商店 三万〇二三〇円
船岡紙業有限会社 三七万七三七八円
(3) <3> 一般経費 六六万三九八二円
<1>の売上金額に別紙4の一般経費率〇・一四三三を乗じたものである。
(4) <4> 外注費 三二万六三九五円
外注先 外注費
細見俊雄 三一万九五〇〇円
船岡紙業有限会社 六八九五円
(5) <5> 減価償却費 五万三七五二円
別紙5記載のとおりである。
(6) <6> 支払利息 一五万六一六四円
昭和五三年分と同様である。
(四) 昭和五五年分
(1) <1> 売上金額 五五八万三六一六円
昭和五三年分と同じである。
(2) <2> 売上原価 五四万八二一五円
仕入先 仕入金額
株式会社廣岡陸三郎商店 二万六〇〇〇円
船岡紙業有限会社 五二万二二一五円
(3) <3> 一般経費 八二万五八一七円
<1>の売上金額に別紙4の一般経費率〇・一四七九を乗じたものである。
(4) <4> 外注費 三九万二七九〇円
外注先は、細見俊雄に対するものである。
(5) 減価償却費 五万三七五二円
別紙5記載のとおりである。
(6) 支払利息 一四万二九二七円
昭和五三年分と同じである。
(五) 昭和五四年分の一時所得金額 九八万三三一〇円
原告は、朝日生命保険相互会社と訴外亡村田由美枝(原告の妻)を被保険者とする生命保険契約を締結していたところ、被保険者村田由美枝の死亡事故発生により、昭和五四年七月二三日朝日生命から保険金受取人である原告に支払われた生命保険金である。
その計算は、別紙3の一時所得金額の計算表記載のとおりである。
3 まとめ
本件処分は、被告主張の総所得金額を下廻るから、原告の本件係争年分の総所得金額を過大に認定した違法はないし、手続的瑕疵もない。
四 被告の主張に対する原告の反論
1 被告の主張1は、否認する。
2 同2は、一般経費をのぞき全部認める。
3 同業者AないしJには、次の問題がある。
(一) 同業者A(昭和五三年分)、同業者D及び同業者Jの一般経費率は、他の同業者のそれと比較し、低くすぎるから、同業者A、D、Jは、除外すべきである。
(二) 税理士報酬は、一般経費に算入のうえ、同業者の一般経費率を算出すべきであるところ、同業者H、Iは、税理士報酬を支払っているから、一般経費に算入しなければならない。
五 被告の反駁
税理士報酬は、特別経費であって、一般経費ではない。そのわけは、税理士報酬は、記帳や決算などの経理事務に税理士が関与した場合にその対価として支払われるものであるから、通常の取引に基づいて発生する経費ではなく、その報酬支払の有無及び金額は売上げと対応せず、むしろ、その事業主がどれほど経理関係を明確にすることを欲したか、またどれほど経理関係に習熟していたかなどの事業主の個別的事情に左右される性質の経費であり、税理士報酬が、特に白色申告者においては、必ず支払われる経費でないからである。
第三証拠関係
本件記録中の証拠関係目録記載のとおり。
理由
一 本件請求の原因事実中1の事実は、当事者間に争いがない。
二 本件税務調査について
本件に顕われた証拠を仔細に検討しても、本件税務調査に原告主張の違法事実が認められる的確な証拠はない。したがって、原告のこの点に関する主張は、採用しない。
三 原告の本件係争年分の総所得金額について
1 被告の主張中、一般経費をのぞき、その余の事実は、全部当事者間に争いがない。
2 そこで、一般経費について判断する。
(一) 同業者の一般経費率について
証人塩谷邦幸の証言によって成立が認められる乙第二ないし第三三号証、同第三八ないし第四一号証や同証言によると、被告は、上京税務署管内の同業者の中から被告主張の条件のもとに同業者AないしJを選出し、同業者AないしJの青色申告書に基づき本件係争年分の売上金額と一般経費を表に記載したところ、別紙4になることが認められ、この認定に反する証拠はない。
(二) 同業者AないしJは、原告と同じ上京税務署管内に事業所のある業種の同じものであるから、同業者の選出条件には、合理性があるとしなければならない。
(三) しかし、同業者D、Jは、本件係争年分を通じて他の同業者と比較して一般経費率が低すぎるし、同業者Eは、本件係争年分(特に昭和五三、五四年分)を通じて他の同業者と比較して一般経費率が高すぎるので、より適切な平均値を求めるためこれを除外する。
同業者A、Cは、本件係争年分を通じ一般経費率にばらつきが見られるので、これらも除外する。
そこで同業者B、F、G、H、Iによって一般経費率を算出すると、別紙6記載のとおりとなる。
なお、当裁判所は、同業者H、Iについて、税理士報酬を含めて一般経費率を算出するが、その額は、前掲乙第二五ないし同第三〇号証によって認める。
(四) 別紙6の同業者の一般経費率を適用して、原告の本件係争年分の一般経費を算出すると、別紙7の<3>の一般経費となることは、計算上明らかである。
3 まとめ
原告の本件係争年分の事業所得金額及び総所得金額は、別紙7の下欄の表の当裁判所の認容額に記載された額となる。
この各金額と、本件処分とを対比したとき、後者は、前者の金額の範囲内であるから、本件処分は、原告の所得を過大に認定した瑕疵がないことに帰着する。
四 むすび
本件処分は正当であり、原告主張の違法がないから、原告の本件請求を棄却し、行訴法七条、民訴法八九条に従い、主文のとおり判決する。
(裁判長判事 古崎慶長 判事 小田耕治 判事補 長久保尚善)
別紙1 課税処分経緯表
<省略>
別紙2 総所得金額の内訳明細表
<省略>
事業所得金額の計算表
<省略>
一時所得金額の計算表
<省略>
別紙3 同業者の一般経費率表
<省略>
(注) 一般経費欄の金額は、税理士報酬を除いた金額である。
別紙4 建物減価償却費算定表
<省略>
裁判所の適用する一般経費率表
<省略>
別紙5 裁判所の認容額表
<省略>
昭和54年分 3,001,050円+983,310円=3,984,360円
本件処分との対比
<省略>